デジタルライターという仕事
僕は、WindowsやExcelからiPhoneやデジカメまで、パソコンやソフトウェア、その周辺機器の操作手順をわかりやすく解説する図解書を書いている。
書店で並ぶ、自分の本を見るにつけ、これを買ってくださる人は、僕のことをデジタルの専門家だろうと思っているのだろうなぁ、と思う。
確かに、デジタル関連についての専門家だし、進化の早いこの分野は日々勉強するしかない。
だから、常にデジタル関連の情報はネットや書籍で拾って、一生懸命ついていってる。
しかし、デジタルの分野について、勉強はするけど、分析はしないし、この分野の今後を予見したいとも思わない。
こうであればいいなーというのはあっても、評論したいわけじゃない。
僕は、デジタル分野のわかりづらいことを、わかりやすく伝えることが使命だと思っている。
例えばWi-Fiについて説明するということを考えてみる。
ちょっとやってみてほしいのだけれども、これが意外と難しい。
どう伝える?
Wi-Fiというのは、実は、インターネットに接続するための電波のブランド名だ。
Wi-Fiアライアンスという無線LANの規格の団体が認めた電波の総称。
もっと専門的に言うと、Wi-Fiアライアンスが策定した「IEEE 802.11」と呼ばれる電波の種類を総称してWi-Fiと呼ぶ。
今、Wi-Fiの主流は、「IEEE 802.11n」で、大量の情報を一度に送受信できる電波の規格だ。
でも、こんな情報、ネタにはなっても、一般的な意味で使う場合には、何の意味もなさない。
重要なのは、誰に伝えるか。
読み手がどんな人なのかを妄想する。
携帯電話回線もWi-Fiも赤外線もBluetoothも、とにかく無線という一言でまとめてしまっている人、多いだろうな…とか。
Wi-Fiを意識して電話回線と使い分けろと解説しても、わかりづらいだろうなとか。
携帯電話の回線とWi-Fiの区別がわからない人に、Wi-Fiアライアンスの話をしても、さらに混乱を招くだけだし。
そこで、何を知りたいと思っているのか、を考える。
・Wi-Fiは、何をするための電波か。
・携帯電話回線とどう違うのか。
・Wi-Fiのメリットとデメリット。
すると、こういう解説になる。
「Wi-Fiとは、インターネットに接続するための専用の電波のこと。
一度にやり取りできるデータ量が大きいが、接続可能範囲が30m~100m以内と狭いのが特徴で、無線LANルーターと呼ばれる機器が設置されている場所で利用できる。
携帯電話回線よりも、やり取りできるデータ量が大きく、動画やホームページもスムースに表示できる上、パケット通信料がかからないというメリットがある。
なお、多くの場合、無線LANネットワークには、セキュリティのためにパスワードが設定されていて、パソコンやスマートフォンで接続する際にはあらかじめパスワードを確認しておく必要がある。」
さらに、よりわかりやすい印象を出したいときは、「である調」よりも「ですます調」で柔らかさを演出する。
「が」「で」のような濁音を極力避けて、「~だけれども」のように柔らかい音で終わるように心がける。
そして、一読できる長さは、だいたい2行ぐらいまでなので、リズムが崩れそうな場合はいったん文を終わらせるなど工夫する。
説明文というのは、文体を味わう文章ではなく、基本的にリズムで読むからね。
特にパソコン図解書の場合、読みながら作業してもらう必要がある。
読み手が読むと同時に操作できるリズムを考える。
そうすると、1つのコラムの文章の量は、多くても5行、3行くらいで収めるのがちょうどいい。
操作方法や用語を厳密な意味での説明するよりも、ごくごく当たり前のことを、わかりやすく説明することで、イメージを描きやすくすることが一番大事だと思っている。
なので、詳しく説明されていてよかったと言われるよりも、わかりやすかったと言われる方が嬉しい。
よりわかりやすい図解書を目指して、言葉のひとつひとつを吟味しながら、頑張っていきたいと思う。